山本秀策特許事務所

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山本秀策のメディアでの発言

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ザ・ローヤーズ 2012年1月号

弁護士・弁理士が語る「新しい時代への見通しと抱負」
日本を立て直すためにさらなる特許法の改正を

力のある価値の高い特許出願は増えている

日本では、特許出願件数が頭打ちの状態が続き、「特許事務所冬の時代」などといわれているようですが、私はそうではないと思っています。その理由は後述するとして、これから特許出願はもっともっと減るでしょう。悲しむべきは、欧米からの日本への特許出願の減少です。ヨーロッパは経済危機で仕方ないとしても、海外からの特許出願の減少は、日本はビジネスマーケットとして魅力がないと判断されてしまっているからです。このことは別の問題として手を打つ必要があり、また実際に打つ手はあると思います。
他方、日本企業が特許出願を減らすのは、当然の方向であると考えられます。TPPの必要性が叫ばれるようなさらなる品質勝負の時代ともなると、価値ある発明を特許出願していこうということであり、当然に出願件数は減るわけです。件数が減ったからといって、国力が衰えるということではないでしょう。
価値ある発明とは、真に社会的に有効な発明のことであり、そうした発明がそうしょっちゅう成されるわけでもないからです。企業は事業の方向性に沿った研究に知力や資金を集中させねばなりません。
大きなテーマを与えたならば、皆あっちこっちバラバラに研究を始めます。そして、何らかの研究成果が出たらとにかく特許を出願しておこう、という時代が長らく続いていました。それは今後も正しいことかと尋ねられれば、私は間違っていると答えます。時代は既に変わっていると認識すべきです。
企業は、自らのビジネス方向に沿ったところにお金を使うものです。ゆえに、企業はビジネス方向に絞って研究を深め、有効な成果を生み、特許出願につなげていくべきです。その局面においては、企業のCEOと知財管理部門トップと研究部門トップが直結し、トップから末端に至るまでポリシーが貫かれていなければなりません。
したがって、特許出願件数自体は当然に減るものの、非常に力のある、価値の高い特許出願は逆に増えるのではないでしょうか。そして、それに基づく外国への特許出願は徹底的に行うことが求められます。

世界的な知財戦略の展開が絶対的に必要

しかし、残念ながらそのような体制になっていない企業が多いのも現実です。そういう方向性で企業を統治できる有能なトップを据えなければなりません。トップは、過去の実績だけで選んでいてはいけないということです。
また、知財の世界においても、少なくなる仕事をどの特許事務所や弁理士が担うのか、あるいは担わせるのかが問われます。当然に優秀な事務所や弁理士が生き残るわけです。プロとしての真っ当な競争の時代が来たということです。したがって、「冬の時代」では決してないと私は考えています。
今、日本は少子化・高齢化などいろいろな問題を抱えています。日本だけではありません。あらゆる先進国がかような問題を抱えています。しかし、日本は国全体の勢いが衰え、韓国、台湾、中国に負けつつあり、なんとなく意気消沈している観があります。それを立て直していくためには、真に有効な発明をものにし、世界的な知財戦略を展開することが絶対的に必要だと思います。
民法や商法、刑法をいくら触ったところで、国の産業を動かしていくことは難しい。そうではなく、特許法や商標法、不正競争防止法、独禁法など、知財がらみの法律を触ると国は動くのです。その点で、今年4月から発効する日本の特許法改正は残念なことでした。改正されるべき点が残されていたからです。もっと大所高所から、国を動かすという視点で改正してほしかったと思います。

日米の大学のライセンス料収入の大格差

残念だというその理由は、次のとおりです。
入手できた最新の公的データである2008年度の、知財分野の統計を見てすぐわかったことに、ライセンス料の問題が挙げられます。そのことに触れる前に、前提となる、発明とはどこから生まれるのかについて言及しておきます。明日を考えての研究開発ができるところは、基本的に大学以外にありません。企業は、今日を生きるために頑張るべきところです。その大学に焦点を当ててみると、2008年度に日本の全大学が得たライセンス料は約14億円でした。うち東京大学は2億円です。同年に日本の全大学が出願した特許は7000件でした。他方、同年にアメリカの全大学で、1万2000件の特許出願をし、その年に3310億円(1ドル100円に換算) のライセンス料を稼いでいます。ということは、単純計算すると、全米の大学が日本の大学の倍にも満たない特許出願しかしていないにもかかわらず、230倍以上も稼いでいるということになります。これは何を意味しているのでしょうか。
単純に解釈すれば、日本の大学は教育には熱心だけれども、研究にはあまり目を向けていないのではないかということです。つまり、ノーベル賞級の価値ある発明が少ないので、それがライセンス料の少なさに直結しているのかもしれないということです。
米国での特許取得に際して日本からの特許出願に学術文献が引用される割合は、アメリカと比べると圧倒的に低く、日本は、先進国のなかでも最低レベルにあります。そうしたことから、日本の特許もレベルは低いのではないかと推察できます。しかし、私はそうしたことよりも、次のことが大きく効いていると見ているのです。

特許法73条の改正でビジネスを動かせる

特許法73条に、「共有の特許権者がいる場合には、共有者の同意を得なければライセンスを供与することはできない」と定められています。例えば、日本の大学と日本の企業が共有の特許権者の場合で考えてみます。
仮に、その技術分野で世界のトップクラスの企業から大学にライセンス供与の申し出があった場合、大学側は「天下のトップメーカーがライセンスを欲しがっているのならば、与えたい」と考えるでしょう。ライセンス料も入るためです。そして、特許法73条に従い、共有企業に同意を求めることになります。
すると、その企業は「自社のビジネスチャンスがなくなる」と拒否するはずです。これが73条の立法の主旨です。共有権者のビジネスに不利益の及ぶのを防ぐため、同意が必要と定めているわけです。
ところが、アメリカでは同意は不要です。大学側は、さっさとライセンス供与できるのです。この実務上の差が日米の大学のライセンス料収入の差ではないかと考えています。
アメリカからよく、ライセンス交渉の要請を受けます。その際に最初に質問されることは、共有者の有無です。この場合、共有者によっては、「もういい」と引かれてしまいます。
なぜならば、同意が必要だからです。企業は日本での実施に拘わります。共有者の同意はライセンス供与において大きな障害となっているのです。
また、73条の立法主旨に意義を唱えるわけではないのですが、ビジネスとは闘いです。73条はこの闘いを初めから排除しようという意図を感じます。特許権者は最初から勝負を放棄しているわけです。これはTPPにおける農業の立場と同じです。
では、果たしてこの73条の立法精神は、現代のビジネス環境に応じたものなのでしょうか。日本が世界の中で生き抜いていくためには、勝負に逃げてはなりません。そして勝たねばなりません。ライセンス供与を求められるということは、つまり闘いを挑まれているということです。その時こそ、それを引き受けて勝負しなければいけないのではないか。私はそう思うのです。共有者が同意するのは、自分が圧倒的に勝っている場合であり、そんなことでは競争とは言えません。
特許法改正では、ここを改正すべきでした。そうすれば、特許戦略の幅も広がりビジネスチャンスももっと増え、もっと日本のビジネスは動いていたと思うのです。

特許法の改正は日本を立て直す切り札

もうひとつは、持許法35条、発明者の対価請求権の取り扱いの問題です。私は、この条文は「亡国の条文」であると確信しています。発明者は対価請求しても失うものはありませんが、企業側にしてみれば、突然、高額の費用が発生するリスクがあります。
このように、発明者に「訴え得」となるこの条文の存在により、多くの外国企業、特に対価請求額が膨大になりやすい、グラクソ・スミスクライン、ノバルティス、アストラゼネカ、ノボノルディスク、イーライリリー、ロッシュ、ファイザーなどの製薬会社が揃って日本での研究拠点を閉鎖し、中国に移りました。
中国の特許制度は日本の特許制度を下敷きにしましたが、対価請求権の適用は国有企業に限定し外国企業は適用除外にしたのです。中国はこのようにして巧妙に外国の研究機関を誘致しているのです。日本の国際競争力の低下の遠因は、ここにもあるといえるのではないでしょうか。
そして、たまたまアメリカも特許法が「先発明主義」から「先願主義」に改正されました。驚くべきことに、アメリカの憲法第8条には「発明者を保護すべし」という条文があります。建国の精神がそもそも「自由、平等、個人主義」ではなかったでしょうか。にもかかわらず発明者個人の保護を抑え込んでまで「先願主義」に変えたのは、アメリカは特許戦争を仕掛ける中国など新興国の台頭の前に、特許出願審査のスピードを上げなければならないとの危機感があってのことだと思います。昨年9月に大統領がサインしました。米国が大きく舵をきったのです。
その一方で、日本の当局は一体何をしているのかとの思いがあります。特許法は、ことほど左様に国を動かす法律だからです。
グローバルな国家間、企業間の競争が激化する中、沈滞する一方のこの国を立て直すために、特許法の改正は非常に有効な切り札の一つになると確信しています。関係者のさらなる奮起を望むところです。


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