山本秀策特許事務所

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山本秀策のメディアでの発言

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日経新聞 2008年10月30日掲載

グローバル知財戦略とリーダーシップ

山本秀策特許事務所代表 山本 秀策 氏

自社の知的財産(知財)を守りつつ新分野を開拓していくための知財戦略。それは一企業の存亡だけでなく、日本の国力をも左右する最重要課題である。不透明な時代に立ち向かううえで、企業経営者はどのような戦略を持つべきなのか。国際特許で国内トップクラスの業務規模を持つ山本秀策特許事務所。総勢二百人に上る専門家集団を率いる同特許事務所代表の山本秀策氏に、グローバルな知財戦略、さらにはリーダーシップのあり方についてインタビューした。

日本が国際競争力を復活させ、国際社会でリーダーシップを発揮する時代を迎えるために

グローバルな知財戦略を真剣に考えない経営者は成長を語る資格がない

日本のこれまでの経済成長は、企業による不断の研究開発・技術革新が支えてきました。今後も技術開発立国を目指すことこそが、日本経済を再活性化させる道であることは、疑う余地がありません。環境、人口、食料問題など、長期的に人類が抱える課題を解決するためには、絶えざる研究開発・技術革新が必要であることもまた自明の理です。今こそ日本企業には、世界経済に付加価値をもたらし、リーダーシップを回復するために何ができるのか、真の存在感が問われているのです。
人類の未来に貢献する研究成果は今、残念ながら日本を素通りして米国、あるいは中国への特許出願となって知財化されています。それが日本国内における海外からの特許出願件数の停滞となって表れています。外国から日本への出願件数は、この十年ほど十四%程度でほとんど変わっていないのに対し、米国や中国への特許出願は飛躍的に増加を続け、両国ともいまや半数は外国からの特許出願となっているのです。人類の生存を左右するほど大きな意味を持つ技術革新、それをビジネスにする手段が特許であり、そのための戦略が知財戦略です。今や、グローバルな知財戦略を真剣に考えない経営者は、成長を語る資格がないと言っても過言ではないでしょう。

知財戦略が日本の国際競争力復活の鍵

二十一世紀はバイオテクノロジーの時代だと言われています。バイオが解決しうる人類の課題は極めて多くあります。しかし、日本におけるバイオ研究は、米国より三十年は遅れているという印象があります。それは「基礎研究への投資の少なさ」と同時に、「国際標準になっていない特許制度」、この両方から来ているということを認識しなければならないのです。例えば、夢の再生医療に向けて期待の大きい、京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞(新型万能細胞)に関する研究を見ても、国内の制度や研究体制が治療技術の権利化や実用化を本質の部分で支援する方向になっているとは言えないのが実情です。
制度面だけでなく、研究成果に対する日本の大学関係者の考え方自体の甘さについても、言及しておかなければなりません。米国では休眠特許を安く購入し高値で企業に売りつける、あるいはライセンス化を迫るパテントトロールという業態が現れています。この事業は芽が出ていない研究成果を特許に育てるうえで一定の役割を果たすということもできますが、一方で大学などの知財をいとも簡単に海外流出させることにもなりかねません。時間と資金を使った貴重な研究成果が日本の大学から一件百万円で買われるケースもあるようです。人類の将来に貢献する可能性のある成果が、安値で簡単に売られてしまっているという問題の重大さに、気づいている学者があまりにも少ない。国の補助金財政が縮減傾向にあるなかで、今後、研究資金を獲得するためにはグローバルな目を持たざるを得ないでしょう。本気で知財ビジネスに取り組み、獲得した資金を研究に還元させている米国の大学を参考にすべきです。
企業経営者の知財に対する思いをとってみても、日本と外国では相当な開きがあります。名だたる日本の大企業でも、知的財産権への投資額は米国の大企業と比較にならないほど低く、実感としては一社当たり米国の十分の一程度というところです。日本の経営者は、もっとグローバルな知財ビジネスの動向を認識すべきですし、知財への投資が国際競争力を生む源泉として極めて大きい位置づけであることを理解し、実行に移さなければならない段階です。ひとつの特許がグローバルなマーケットの地位を長期にわたって決定してしまう可能性があり、とりわけ先端技術の分野では、国内だけで事業を結論付けることはもはや意味を持ちません。日本企業がかつてのような国際競争力を復活させ、長期にわたって成長を続けるためには、知財への投資、さらにその知財を権利化する意義に、経営者が早く気付くべきではないでしょうか。
米国では、経営のボードに博士号を持つ人材が就くことが多い。そうすることで、研究開発や知財に深く関わることができ、直接指示を出すことができるからです。このように、知財はCEO(最高経営責任者)にできるだけ近づけるべきでしょう。

本業を通じて社会に永続的に貢献していくのが本当の企業経営

私たちの事務所は特許の専門家集団として、研究成果をビジネスに生かすためのお手伝いをしています。その中では、法律の知識、先端技術に関する知識、いずれも必要になります。法律やサイエンスの知識を総動員して、世界で通用する知財を権利化するわけです。その法律をめぐる解釈をとっても、日本の法曹界では主として成文法としての法律を重視する傾向があり、判例や慣例を考慮して判決を下す米国とは隔たりがあります。企業活動のグローバル化にともない、法解釈を国際統一すべきだという考えも一部にはありますが、膨大な法律・法令を統一することは、現実的とはいえません。国際特許事務所の仕事は、米国での係争には米国の法律に、日本での係争には日本の法律にそれぞれ従って権利を獲得する、そのやり方で世界を相手にしています。
法律という点で言えば、近年、経営者の間ではコンプライアンスへの関心が高まっています。その際に、日本の経営者の間では、コンプライアンスを法令順守と文字通り受け止め、法律違反がないかどうか社内を確認あるいは調査し、その結果だけでコンプライアンスが徹底できていると考える向きがあまりにも多いように感じます。これは全くの思い違いです。真のコンプライアンスとは、単に成文化された法律だけを守ることではありません。顧客、従業員、さらに社会といった多数の人々から構成されるステークホルダーからの期待、要請に応え、満足度の高い製品、サービスを永続的に提供していくという、経営の王道を歩むことにほかならないのではないでしょうか。
社会通念や常識が見えなくなり、不祥事を起こしてしまう企業が続出していることから、企業の社会的責任(CSR)についての注目も高まっています。これについても思い違いがあります。CSRとは奉仕活動や寄付等の社会貢献を積極的にすることだと解釈する向きがあるのですが、真のCSRとは、より多くの人々に付加価値の高い商品やサービスを提供して社会を豊かにすると同時に、自社の利潤を最大化することで、納税や雇用という形で持続的に社会に貢献するという、「持続的な利益追求」のことなのです。
永続的な企業(ゴーイングコンサーン)として、社員、顧客、ビジネスパートナー、そして社会からの信用、信頼を常に得ながら企業が存続していく。本業を通じて社会に永続的に貢献していくのが、本当の企業経営です。また、その「持続的な利益追求」へ向けて、競争力を維持・強化するためにこそ、知財を守り、活用することが最も大切であると強く訴えたいのです。

社員とリーダーがともに働き組織に貢献する

持続的な利益追求、付加価値の最大化のためには、経営者の強いリーダーシップが何より求められます。私は経営に当たっては、社員が目標に向かって一丸となり、立案→実行→報告のサイクルを回し続けることが大事であると常に考えています。さらに社員が迅速かつ品質の高いサービスを追及するのに重要なのは、一人ひとりが仕事に向かう際に「正直」「素直」「謙虚」な気持ちを持つことだと思っています。そのような心構えで業務に取り組むことで、どんな困難な事象にぶつかっても解決策が早く見えるでしょうし、顧客も満足いくサービスを受けとることができます。
さらに、社員に最大限に実力を発揮してもらううえで、組織の運営において大切なのは「透明性」です。組織の財務や会計データは社員からできるだけ見えるようにする。そのことで、組織の方向性や経営状況、さらにどのような役割を果たすことを期待されているかを、社員が自分自身で把握し、期待に対する貢献度合いを認識することができます。透明な経営のうえにこそ、公正な評価があり、社員が強いモチベーションを維持できる。そして、リーダーは自ら率先して動き、多くの仕事をするべきであるし「正直」「素直」「謙虚」を実践し、誰からも信頼されるような行動を取るべきだと思います。
真のリーダーとは、誰よりもよく働くと同時に、事実を確認できる正確な眼と、先を見通して大局的な判断ができる眼を併せ持つことができる人です。迅速に先を読んで決断をしなければなりませんから、自分の直感を信じることも必要です。そのうえで、事業拡大を支援してくれた人々からの期待に背かぬよう、そして恩を返せるように常に努力する。日々が真剣勝負です。結果をうそや偽りで塗り固めたならば、組織は三日と持たないことを肝に銘じるべきです。リーダーには大きい責任とリスクがのしかかりますが、真剣勝負であればこそ、ビジネスで勝った時にはすばらしい達成感がある。そうした大きな成果を出した時のかけがえのない喜びを、社員と共有できるのがリーダーです。
実際、私の事務所においては、所員は仕事を通じて国際感覚を身に付けながら、法律とサイエンスの知識も習得してそれを深耕するとともに、誇りを持って仕事を進め、結果として事務所のビジネスを拡大してくれています。これは、経営者として無上の喜びです。

日本の企業経営者に求められる知財戦略のリーダーシップ

私の事務所では十カ国の外国出身者がおり、その比率は所員全体の約二割に達します。外国での弁護士資格やサイエンスでの博士号を持っている精鋭たちです。多様な価値観を認め合う風土は事務所の特色になっており、世界を相手にして大きなビジネスをする前提条件にもなっています。また、以前から女性が素晴らしい活躍をしており、働き方の多様性、すなわちダイバーシティは、事務所の本質である「知」の協働に不可欠なものになっています。さらに、出身や学歴、先入観で一切評価しない、実力主義が大方針です。報酬に反映される徹底した実力主義、公正な評価、さらに透明な経営があるからこそ、所員の真剣な仕事への取り組みがあるのだと私は信じています。
私の経営のビジョンは、今後、知的財産ビジネスが権利取得から権利行使の時代へと移るグローバルな流れの中で、その動きに対応できる国際特許事務所へと発展させることです。すでに米国では、力のある特許事務所がその流れに乗っていますが、日本はまだ、権利取得が大多数の弁理士の仕事の中心です。権利行使とは、「守り」の色が強い権利取得業務に対し、積極果敢に「攻める」とこを言います。攻撃的に訴訟を起こすことやライセンスビジネスへの道を作ることです。
このビジョン実現に向けて段階的に歩みを進めていく中で、まず実行に移せるのは、外部弁護士との連携を深めること、さらに近年国家資格になった訴訟代理人資格を取得、活用できる所員を増やすこと。そのうえで事務所として法廷で戦う力をつけていくことです。
日本が国際競争力を復活させ、国際社会でリーダーシップを発揮する時代を迎えることができるかどうか、それは、日本の経営者たち、さらには特許制度を担う人々が、企業、そして国の知財戦略の重要性に本当に気付き、その戦略を実行できるかどうかにかかっています。私たちは先頭に立って、その戦略をリードしていきたいと考えています。

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